安泰寺入口にての経行(きんひん) 昭和三十年
うらやましたてなるいとのひとすじに 心しずめて行きかえるきみ 宗績(*)
祖道師の経行に接しての齋藤宗績氏の歌
……其の折、笹刈る手元に楢(なら)の実いくつもいくつも落ちていました。しかしその年、楢の木も楢の実も私の心に入りませんでした。一年後、子供がどんぐり拾わしてくれと云って来た時に、初めて楢の木と楢の実が私の心に入ったのでありました。「安泰寺たしかにみ堂のそばに太い楢の木ある。そして笹やぶに楢の実落とす」と。楢これはくぬぎの木でありました。私これを楢とのみ思っていました。その折のうた
玄琢の釈迦谷口のみ寺なる 楢の実拾ひに来つる童べ
安泰寺み堂のそばの笹やぶに 楢の実落とす太い楢の木
横山祖道著『我立つ杣』〜鉢の子〜 より